22年度までの研究によって、ショウジョウバエ中腸の内臓中胚葉で発現するHOX遺伝子群の働きについて、Ubxについては、以前から指摘されていたように、分泌性シグナル因子Dppを介して、中腸上皮(内胚葉)に作用し、第2チェンバー特異的な細胞分化を引き起こすことが確認されたが、後部中腸で発現するabd-Aについては、abd-A単独の突然変異では、後部中腸特異的な上皮の細胞分化が阻害されて、第2チェンバータイプの細胞へと分化するものの、Ubxとabd-Aの二重変異胚では、形態的奇形にも関わらず、後部中腸特異的な細胞分化が生じていた。内臓中胚葉のHOX遺伝子間には、遺伝子相互の複雑な制御関係があると考えられたことから、この問題を解決するため、HOX遺伝子群が発現する内臓中胚葉そのものを欠損する胚を、突然変異およびアポトーシスの誘導により作製し、中腸上皮の部域特異的細胞分化を調べた。その結果は以下の通りである。 ①第2チェンバー特異的細胞分化は、内臓中胚葉の存在を必要としており、これは、Ubx の作用で作られるDppによって分化誘導がなされていることによる。 ②第1、第3、第4チェンバーの部域特異的細胞分化は内臓中胚葉の欠損化でも生じてお り、中腸内の相対的位置も、強い奇形にも関わらず、保たれていた。 以上の結果は、中腸内臓中胚葉で発現するHOX遺伝子群の、中腸上皮の部域分化における役割は、遺伝子によって違いがあり、Ubx以外のHOX遺伝子は、部域分化の誘導そのものには関与しない、という意外な結果が得られた。これらの結果は論文として公表する予定で、現在執筆中である。
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