Wnt分子は、様々な動物の初期発生や発ガンの過程で重要な役割を果たすシグナル伝達のリガンドとしてよく知られたものであり、シグナル伝達分子が全てそうであるように、細胞外に出て細胞表面で働くと考えられてきた。本研究では、この常識に反し、アフリカツメガエルの初期発生での背側化過程ではWntが細胞表面ではなく細胞内の小胞体で働くことを示そうとしている。 本研究で調べる2つのWnt、Xwnt8とcWnt3a2にHAタグをつけ、免疫組織化学的に可視化した。同時に注入したlineage tracerの分布域と、HAタグの抗体染色域は完全に一致し、Wntタンパク質はmRNAを注入された細胞でだけ存在していることがわかった。HA染色は小胞体を特異的に染色するPDI抗体による染色とほぼ完全に一致した。また、小胞体貯留シグナルKDELを付加し、細胞外に出ていかないフォームにしたときにも背側化の機能が失われないことを示した。 私達はこれまで、HA抗体染色を行う際に、サンプルを固定後、メタノール中で保存してきた。このメタノール保存を行わないときには、HA染色体は主に細胞境界に見られることがわかった。しかしながら、KDELを付加したXwnt8-HAについては、メタノール保存を行わないときにも細胞境界でなく細胞内で染色が見られることがわかった。さらに、機能的にもこの分子が、発現している細胞だけで機能し、周辺の細胞に影響を与えないことを割球組み合わせ実験などにより示した。これらのことは、Wntがアフリカツメガエルの初期胚では細胞外ではなく、細胞内で働く事を強く示唆する。本研究は、この分子の機能様式に全く新しい知見をくわえるとともに、シグナル伝達一般についても再検討を促すものとなる。
|