研究課題
再生現象を総合的に理解するためには多くの生物種を対象として再生に関わる分子機構を検討する比較生物学的アプローチが必要である。棘皮動物は強い再生能力を持つものが多いが、再生に関与する分子機構や未分化細胞の存在はほとんど明らかにされていない。今年度はウミシダの再生関連遺伝子の候補としてこれまで様々な生物種で発生や再生に関わると知られている遺伝子を選び出し、クローニングを試み、解析した。vasa遺伝子は数多くの動物種から同定されており、生殖細胞などの未分化細胞での発現が知られているので、ウミシダでも腕の再生過程においてまずvasaの発現を詳細に解析した。ウミシダの腕は腕の特定の部位で自切し、そこから再生が開始する。人為的に自切を誘発し、再生の過程を追って再生組織をサンプリングした。vasaは未処理のウミシダの腕でも発現していることがわかった。再生中に発現重は次第に減少し、また増加に転じる発現パターンを示した。ウミシダは環境の悪化などのストレスで腕を自切するため、再生は頻繁に起こる現象である。vasaが再生に関与する未分化細胞の存在を示すとすると、ウミシダは常に再生に備えて未分化細胞を腕に持ち、再生の初期には再生芽に集まった未分化細胞が増殖しつつも分化するが、ある程度組織が分化すると、次の再生に備えて未分化細胞が増えるのではないかと解釈できる。実際に再生組織の遺伝子発現の領域を調べようとWISHを行ったが、まだ手法が確立されていないため、成功していない。また、他の生物種ではまだ再生との関連が知られていない体節形成、細胞増殖、神経分化などに関わる他の遺伝子の解析も進めている。そのうちの一つ、Hox遺伝子は腕の再生に伴う伸長の際、近位-遠位の領域性に応じて発現する可能性が考えられる。Hox遺伝子は現在までのところ9つ単離できている。発現の領域性に相関するゲノム構造についても解析を進めている。
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