再生現象を総合的に理解するためには多くの生物種を対象として再生に関わる分子機構を検討する比較生物学的アプローチが必要である。棘皮動物は強い再生能力を持つものが多いが、再生に関与する分子機構や未分化細胞の存在はほとんど明らかにされていない。これまでに行ってきたウミシダの再生の分子機構を探る研究にナマコも材料として加えた。 まず、ウミシダに関してはHox遺伝子のクラスター構造の解明を継続して行った。9つあるニッポンウミシダのHox遺伝子はFISH解析から、一つのクラスターを形成していると推定されるため、遺伝子がゲノム上でどのように並んでいるかを決定するため、ゲノムBACライブラリーおよびFosmidライブラリーから遺伝子を含むクローンの単離を行った。しかし、これまでに判明している4つのコンティグからのウォーキングでも、つなぐことができなかった。これに関してはさらなるクローニングが必要であるが、アメリカムラサキウニに比べるとゲノムサイズが大きく、遺伝子間の距離が長いことが予想される。 また、再生過程の比較のために、非常に強い再生能力を持つナマコを材料とすることにした。再生過程でも発生に関わる遺伝子の発現があることが報告されていることから、中でも神経に着目し、神経発生に関わる遺伝子をクローニングした。具体的にはelav、musashi、soxB1をcDNAよりクローニングした。これらは神経幹細胞や神経へと分化していく細胞に発現が認められるとして、半索動物などで神経マーカーとして用いられるものである。期間中には発生過程での発現を確認した。発現している細胞が神経細胞であるか否かに関してはさらなる検証を行い、実際の再生過程での発現を調べていく予定である。
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