研究課題
分子系統樹において、パン酵母Saccharomyces cerevisiaeから遠く離れた酵母のミトコンドリア核様体に存在するDNA結合タンパク質Abf2pホモログの多様性について研究を行った。平成24年度は分裂酵母Schizosaccharomyces pombeのミトコンドリア核様体を主に調べ、26 kDaのDNA結合タンパク質を同定した。このタンパク質は、部分アミノ酸配列から、DNA修復への関与が報告されているCmb1タンパク質であることが分かった。Cmb1タンパク質の細胞内局在性を調べるため、Cmb1-GFP融合遺伝子を酵母ゲノムに挿入し、融合タンパク質を発現する株を作成したところ、GFP蛍光は酵母細胞核ではなくミトコンドリア核様体に一致して見られた。次に、Cmb1タンパク質を大腸菌内でGST融合タンパク質として発現し、精製した。これを抗原としてマウスポリクローナル抗体を作成した。分裂酵母に対して間接蛍光抗体法を行うと、細胞核ではなくミトコンドリア核様体に一致した局在を示すことが明らかとなった。Cmb1タンパク質は、筆者らが明らかにしたYarrowia lipolytica Abf2pホモログと同様に、C末端側にHMGドメインをひとつのみ保持している。そこで、Cmb1タンパク質をN末端側およびC末端側に分割して大腸菌でGST融合タンパク質として発現し、精製した。ゲルシフトアッセイでDNA結合能を調べた結果、HMGドメインを含まないN末端側のほうが、HMGドメインを含むC末端側よりも強いDNA結合性を示すことが明らかになった。DNAを折り畳む能力として、プラスミドへのスーパーコイル形成能を調べたところ、Cmb1全長、N末端側部分、C末端側部分のいずれにもスーパーコイル形成能が見られた。
2: おおむね順調に進展している
分裂酵母はすでにゲノム解読が終了しているが、Abf2pの種間多様性が高いため、ゲノム情報からはミトコンドリアDNA結合タンパク質Abf2pホモログを同定することはできない。我々は実際に分裂酵母からミトコンドリア核様体を単離してタンパク質を同定することで、これまで細胞核の修復に関与すると報告されてきたCmb1タンパク質がミトコンドリアに存在するという新しい知見を得た。この発見は、Cmb1タンパク質がミトコンドリアDNA変異の修復に関わっているという新たな問題を提起した。
平成24年度は主に分裂酵母Schizosaccharomyces pombeのAbf2pホモログの同定を行い、Cmb1タンパク質がミトコンドリアに局在するという新しい知見を得た。この結果は、Abf2pホモログがミトコンドリアDNAの折りたたみと安定性に寄与するという従来の機能に加えて、ミトコンドリアDNA変異の修復に関与するという新規な機能を示唆するものであり、今後、Cmb1欠損株の詳細な解析によりCmb1がミトコンドリアDNAの変異修復にどのように機能するかを明らかにしたい。
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European Journal of Medicinal Chemistry
巻: 63 ページ: 531-535