研究概要 |
現存生物のヘモグロビン(Hb)のアミノ酸配列のデータベースからHbの分子進化系統樹を作域し、それを基にして祖先動物のもっていた祖先型Hbのアミノ酸配列を推測して合成するという逆分子進化法を遂行して以下の結果を得た。 1.魚類祖先型Hb:1,200個のアミノ酸配列と塩基配列を収集し、アラインメントを作成して、α鎖は166個、β鎖は172個の配列に絞った。適当なソフトを用いて近隣結合系統樹、さらに最尤系統樹を作成し、その中の各分岐点の信頼性の検討を行い、進化上の意味も考慮して、最終的に硬骨魚類祖先型Hbのα鎖(ancfA)とβ鎖(ancfB)のアミノ酸配列を推定した。これら祖先型は、デボン紀の終わりから石炭紀の初めにかけて、まさに川から海に進出しようとする魚類群に相当する。これらの配列に基づいて人工遺伝子を設計し、合成し、配列確認後、発現ベクターに組み込んだ。 2.円口類祖先型:無顎類で現存するヤツメウナギやヌタウナギなどの円口類のHbは、オキシ型で単量体、デオキシ型で二量体または四量体となり、単量体Hbから協同作用をもつ四量体Hbへの進化のつなぎの役割を演ずると考えられてきた。今回、63個の円口類のアミノ酸配列からアラインメントを作成、配列を絞り込み、近隣系統樹、さらに最尤系統樹を作成、円口類全体の祖先型の分岐点にあたるnode23、ヤツメウナギの祖先型の分岐点にあたるnode25のアミノ酸配列を推定、遺伝子を設計、それを合成、そして発現ベクターに組み込んだ。本研究の分子系統樹解析の結果、無顎類の円口類Hbは他の脊椎動物とは独立にHbを進化させたのに対して、有顎類のHbは無顎類から分岐後にミオグロビンとHbを進化させてきたことが分かった。
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