研究概要 |
立位姿勢での動的な多関節運動において,姿勢調節に参画する筋が疲労した場台,他の姿勢協同筋が補償し平衡保持を図ることが予測されるが,その機序はいまだ明らかではない.この姿勢協同筋の補償機能は,とくに高齢者の安全な生活遂行能力(転倒予防)の確保にとって重要である.本研究では,姿勢平衡を維持する姿勢協同筋を中心とした神経系システムの,筋疲労に対する補償的作用およびその加齢的変化を全身協関的視点から精査し,その老化遅延策を体力・生活環境面から検討しようとした.平成22年度は,第1実験として若年成人20名を被験者とし,安静立位から片上肢の前方挙上による錘の投球動作を実施し,その際に姿勢筋である前脛骨筋を疲労させ姿勢協同筋の回復様相を検討した.その結果,疲労姿勢筋の活動は消失し,代わって協同筋である大腿二頭筋や脊柱起立筋の有意な活動増大が認められ,姿勢協同筋の補償機能の存在が確認された.第2実験として,若年成人10名の被験者に単盲検クロスオーバー法を用いて,等熱量の高炭水化物食(HC)と高脂肪食(HF)を摂取させ,同様の姿勢筋疲労をともなう投球実験を実施した.その結果,HF摂取の場合,姿勢筋の疲労回復時間(姿勢筋活動の出現時間)がHC摂取より有意に遅れ,それに応じて姿勢協同筋活動の増大が認められた.第3実験として,投球トレーニングを重ねているソフトボール投手10名を被験者とし,同様の実験を実施した結果,姿勢筋の回復が一般若年成人よりも有意に早く,疲労運動終了後30秒~1分以内での回復が認められた.以上のことから,姿勢協同筋適応能は,日常の栄養摂取や運動習慣に影響を受けることが示唆された.
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