平成24年度は65 歳以上の高齢者について,安静立位姿勢からの最大努力のアンダーハンドでの投球動作に付随する姿勢調節活動について筋電図を中心に記録した.そして,姿勢協同筋を中心とした神経系システムの補償的作用ならびにその加齢的変化について検討した.平成22・23年度実施の若年成人対象の実験同様,下肢筋群における姿勢筋を筋力発揮トレーニングで疲労困憊まで至らせた後,投球動作を15-20 本実施する間に,筋電図,床反力,足圧分布,足圧中心位置,およびLED センサを用い生体情報を記録した.分析にあたって,投球肢の速度の変化とともに,疲労姿勢筋だけでなく他の疲労していない姿勢協同筋活動の様相変化に着目した.特に姿勢筋の活動について,主運動開始より前に発現するフィードフォワード性の姿勢調節(APA: anticipatory postural adjustments) の様相について検討した.また,高齢者の転倒指標として使用される,アキレス腱反射・振動覚検査・足底触覚検査を実施した. 実験の結果,動作課題時のAPAについて高齢者群は若年成人者群と全く異なる筋電図様相を示した.若年成人者群では投球動作の主動筋である三角筋前部の活動に先行して前脛骨筋のAPA活動が認められたのに対し,高齢者群ではAPA活動自体が認められない被験者や腓腹筋やヒラメ筋などの下腿三頭筋群のAPA活動がみられた被験者もいた.高齢者群の投球肢のスイングスピードも若年成人群より有意に低く,姿勢調節において若年成人群とは異なる戦略をとっていることが明らかになった.平成22・23年度の実験結果から,フィードフォワード性の姿勢調節は速筋線維の方が優位に参画することが示唆されており,加齢による速筋線維の脱落が報告される高齢者群において,転倒予防につながるAPA活動もその様相が変容していることが示唆された.
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