本課題研究に先立ち、報告者は、南米全土におよぶ純粋なモンゴロイド系少数民族の血液検体よりB細胞株500個体分を樹立した。血液検体は有限の研究材料であり、そのまま使用すればすぐに尽きてしまうリソースである。報告者が樹立した南米検体にはすでに滅亡し収集しなおすことのできない部族等も含まれており、B細胞株の樹立は、尽きることのない遺伝資源を確保するために非常に重要である。B細胞株は長期間培養後でも正常な染色体核型を保持することが知られており、ゲノム構造を安定に保つと考えられてきた。しかし、B細胞株のゲノム安定性に関して高解像度で網羅的なゲノム解析はこれまでにほとんど行われておらず本研究課題のような遺伝学的解析にB細胞株を使用することを不安視する研究者も多い。 そこで報告者は本年度の研究として、まず、マイクロアレイを用いてB細胞株の網羅的なゲノム安定性解析を行った。その結果、B細胞株樹立過程で発生したと考えられるリアレンジメントはほとんど検出されず、B細胞株の遺伝資源としての有用性を示すことができた(この成果は、報告書提出時点で論文雑誌に投稿中である)。 マイクロアレイ解析によりB細胞株のゲノム安定性が確認できたことを受け、本年度は部族間比較解析のための準備に着手した。解析対象のゲノム領域としてマイクロサテライト多型を用いることを計画しており、本年度は法医学的マーカーについてデータの取得を進めている。本報告書提出時点で、全てのB細胞株について、個体識別に使用される法医学的マーカーおよびY染色体上の法医学的マーカーのデータ取得が完了している。 次年度は、マーカーの種類を増やすとともにこれらのデータを用いて南米各部族の類縁関係の解析を進め、解析に適したマーカーの絞り込みを行う予定である。
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