EBVで不死化したB細胞株(B細胞)は正常なゲノム構造を安定に保つと考えられているが、高解像度で網羅的なゲノム解析は行われていなかったことから、まずアレイCGH解析によりゲノム安定性を確認した。南米先住民族の類縁解析においては、性によるバイアスを極力排除するために常染色体上のマイクロサテライト(MS)多型を解析に用いた。 1)B細胞株樹立および培養過程におけるゲノム安定性 継代数15程度の10検体についてアレイCGH解析を行った結果、全てのB細胞において免疫グロブリン遺伝子クラスター(Ig)領域の欠失が認められた。Ig領域はBリンパ球の分化過程で欠失する領域であることから、B細胞で検出されたこの領域の欠失はBリンパ球由来であると考えられた。末梢血単核球からBリンパ球を分画し同様にアレイCGH解析を行ったところ、B細胞と同様の欠失パターンが認められた。B細胞の樹立過程で生じたと考えられる増幅・欠失は4カ所検出され、樹立初期におけるゲノム構造は安定していることが示された。30継代程度培養したB細胞株おいては、解析した3株中1株において4番染色体トリソミーが確認された。この細胞集団では4番染色体以外の領域での増幅・欠失は認められなかった。継代数の少ない細胞集団と継代数を経た細胞集団について細胞クローンの解析を行った結果、両者は異なるBリンパ球由来であることが示された。 2)部族間の類縁関係 MS8領域とベネズエラ46個体、コロンビア26、エクアドル40、ボリビア24、チリ42を用いてMSの総アリル数を算出したところ、南米全検体は54で日本人(152検体)と大きな差異は無かった。地域ごとの集計では地域間で遺伝的特徴の異なることが示唆された。また地域ごとに各アリルの出現頻度が異なっており、南米先住民族は地域ごとに特徴的な遺伝的背景を保持することが示された。
|