(1)乾燥ストレスによるイネの主根伸長現象を「Root Box法」を用いて解析した。栽培方法を改善したことにより、植物の形質に変化の現れる時期を明確にすることができた。ストレス処理後3日目から伸長差が現れ始め、その後もストレス区では主根が大きく伸長し、コントロール区との差は徐々に大きくなった。植物は水の減少対して迅速に応答し、根系を発達させることにより、乾燥に適応しようとしていることが明らかになった。 (2)主根伸長差が生じる直前のサンプルを用いてマイクロアレイ解析を行った結果、細胞伸長に関わるxyloglucan endotransglycosylaseやexpansin、細胞分裂に関与するポリアミン生合成酵素であるarginine decarboxylaseの発現の上昇がみられた。この他にも細胞伸長や細胞分裂の制御に関与するオーキシン、サイトカイニン、エチレンに関る遺伝子に発現変動がみられた。このようにこれらの遺伝子が、細胞伸長および細胞分裂を活性化することにより、主根伸長現象がおこっていることが示めされた。 (3)それらの中でオーキシン関連遺伝子に関して詳細にRT-PCRによる発現解析を行った。IAA生合成の場と考えられる葉茎組織では、不活性型のアミノ酸結合型IAA合成酵素として知られるGH3遺伝子ファミリーの発現が上昇し、根においてはアミノ酸結合型IAAを加水分解し活性型の遊離型IAAを生成するIAA-amino acid hydrolaseであるILR1の発現が上昇した。これらのことから、植物は乾燥ストレスを感知すると、葉茎組織においてGH3による不活性型のアミノ酸結合型IAAの合成を促進し、根系へと求基的な輸送を行う。結合型IAAが蓄積した根系では、ILR1の働きにより活性型のIAA量が増加し、これが主根伸長現象に大きく関与していると考えられた。
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