23年度までの結果から、チガヤゲノムを速やかに排除する遺伝子または半数性胚を成長させる遺伝子が、Dゲノムの1D,2D,5D,7D染色体に存在することが示唆された。マカロニコムギのAまたはBゲノム染色体をタルホコムギのこれらのDゲノム染色体と置換した系統(染色体置換系統)にチガヤを交雑し、受粉後一定時間ごとに子房を固定し、初期発生から2週間後までの半数性胚の形成率を解剖学的あるいは細胞組織学的に調べた。これまでの研究から、コムギとの雑種胚におけるチガヤ染色体の消失は、ヘテロクロマチン化が原因ではないかと考えられるので、受精後の初期胚に対して既知のヒストン修飾(メチル化およびアセチル化)の抗体を用いて、免疫染色法により調べ、さらに、DNAのメチル化についても抗メチル化シトシン抗体を使ったFISH法で染色体上に可視化した。その結果、初期胚の細胞分裂においてチガヤ染色体は、ヘテロクロマチン化して凝縮するなど、エピジェネティックな変化がみられた。チガヤ法によりライコムギとパンコムギの雑種(AABBDR)後代から得られたダブルハプロイドの中で、病虫害抵抗性や乾燥耐性をもつ優良個体を選び、Rおよび Dゲノム染色体をFISH法で同定した。これらの系統はDゲノム染色体の一部がライムギ染色体と置換しており、しかもホモに固定されているので、チガヤ染色体脱落に関与するDゲノム染色体を推定することができた。いずれの系統も2Dおよび7D染色体をもっていたが、他のDゲノム染色体はライムギ染色体と置換することが可能であったことと、マカロニコムギのDゲノム染色体置換系統の解剖学的あるいは細胞組織学的から、2Dと7D染色体が染色体脱落およびその後の胚の成長に深く関与していることが明らかになった。
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