研究概要 |
コムギの遺伝子型が腐生性フザリウム病原菌およびマイコトキシン産生量にどのように影響するかについて、宿主-病原菌間のクロストーク解析を行いコムギの抵抗性を解明する。 フザリウム菌が遺伝子型の異なるコムギに感染した際の遺伝子発現を比較するために、遺伝子型の異なるコムギ穂中段あたりの一つの開花小穂へFusarium graminearumを接種し、5日後では病徴の変化が見られなかったが、10日~15日後に罹病性品種Gamenyaで病徴が急激に進行した。一方、抵抗性品種の蘇麦3号では病徴が1小穂に留まり、フザリウム菌の増殖に差が認められた。マルチプレックスPCR法により、Gamenyaと蘇麦3号に感染したフザリウム菌の毒素(トリコテセン系マイコトキシン)産生遺伝子のTri遺伝子群(Tri4,5,6,8,11)を増幅し、Actine、β-tubulineを内部標準として多機能遺伝子発現解析装置(BECKMAN GeXP)によってTri遺伝子発現を解析した結果、Actineを内部標準として相対的な(フザリウム菌細胞あたりの)Tri遺伝子発現を解析すると接種5日後では抵抗性品種の蘇麦3号のTri遺伝子発現がGamenyaと比べて有意に高くなった。一方で10、15、20日後では両者の発現に有意な差はなく、感染初期の抵抗性品種でのみ発現が高いことが分かった。生合成経路の下流で毒性変化に関与するTril1のみ発現が低く有意な差は認められなかった。1小穂に接種した穂全体ではGamenyaでの病徴の伸展が著しく、15、20日後で蘇麦3号と比較して高いTri遺伝子発現が見られた。病徴の伸展と定量的PCRによる菌体量を相対的なTri遺伝子発現程度と比較した結果、菌量の増加とマイコトキシン産生経路のTri遺伝子発現との間には関係が認められなかった。一方で、菌体量が増すことで穂全体のTri遺伝子発現が増加したことから、菌体量とマイコトキシン(DON)蓄積は比例傾向にあることが示された。
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