研究概要 |
土壌条件の違い,特に土壌水分の違いが果肉障害発生に及ぼす影響を検討したところ,土壌水分過剰区(pF値1.0以下)では土壌水分適切区(pF値1.9)に比べて,コルク状褐変症状の発生が減少したが,水浸状褐変症状の発生には両区間に差は認められなかった.土壌水分過剰区で,コルク状褐変症状の発生が減少した原因は明らかではないが,この症状発生の要因解明のカギとなる点であり,来年度より詳細に調査する必要がある. また,果実内のホウ素含量が果肉障害発生に及ぼす影響を検討するために,樹体にホウ素溶液を全面散布したところ,ホウ素処理した樹の果実ではホウ素含量が高まるものの,水浸状およびコルク状褐変症状の発生には影響しなかった.このことから,果肉障害の発生にはホウ素はあまり関連していないものと考えられた. 平成23年度は果肉障害の発生が少ない傾向にあった.そこで,果肉障害発生の多かった平成21年の果実と発生が少なかった平成23年の果実について,果実内部成分の季節的変化を比較した.その結果,果肉障害多発生年の果実では,少発生年の果実と比べて,より早期にフルクトースおよびスクロースの蓄積が始まり,成熟期のスクロース含量が高くなること,細胞壁構成成分であるセルロース含量が低く推移すること,また果実発育・成熟期を通してカリウム含量が,成熟期におけるカルシウム含量が低く推移する傾向にあることが明らかとなった.これらのことから,果肉障害多発生年の果実では,糖蓄積のパターンから果肉先熟型の果実成熟の様相を示す傾向にあることが示唆された.このような果実成熟の様相と果肉障害発生との関連についてもさらに詳細に調査する必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り,土壌水分の違いが果肉組織に発生する水浸状およびコルク状褐変症状に及ぼす影響,またホウ素と両褐変症状発生との関連性,褐変症状組織における形態的特性,障害多発生年における果実特性について明らかにすることができたため.
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今後の研究の推進方策 |
ニホンナシ'あきづき'に発生する果肉褐変障害の発生要因の解明をさらに進めるために,以下の3つのアプローチを試みる.まず第1に,本障害の発生は園地により発生の程度が異なることが知られている.そこで,発生が多く見られる園とあまり見られない園における果実内部成分の変化を比較する.第2に,昨年度の試験結果において,土壌水分含量が高いとコルク状褐変症状が減少する傾向が認められたことから,土壌水分の違いが果実内部成分に及ぼす影響ならびに果実表面温度がコルク状褐変症状の発生に及ぼす影響について調査を行う.第3に,昨年度行った予備試験の結果においてエセフォン処理がコルク状褐変症状の発生を低下させる傾向が認められたことから,本年度はエセフォン処理が果肉障害発生と果実の内部成分に及ぼす影響について詳細な調査を行う.
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