水浸状果肉障害発生程度の異なる生産者園間で果実発育および成熟期間中の果実内部成分および葉中無機成分の変化を比較した.多発生園の果実では少発生園の果実と比べて,果実成熟期においてフルクトースの増加が早期に開始され,スクロース,ペクチンおよびセルロース含量が高い傾向にあった.土壌および葉中カルシウム含量は多発生園で高かったものの,成熟期における果実中のカルシウム含量は多発生園で低く推移した.これらのことから,水浸状果肉障害多発生園の果実は少発生園の果実と比べて成熟が早く,果実へのカルシウムの移行が不良である傾向があると考えられた.また,この傾向は水浸状障害多発生園における障害多発生年と少発生年の果実内分成分の違いと非常に類似していた. 次にポット植えの‘あきづき’樹を供試し,土壌水分の違い,果実への遮光処理および果実へのエセフォン処理が果肉障害発生に及ぼす影響について調査した.土壌水分の違いおよび果実への遮光処理は果肉障害の発生に大きな影響は及ぼさなかったが,収穫開始約40日前の果実への100ppmエセフォン処理は水浸状およびコルク状果肉障害を著しく減少させた.そこで,エセフォン処理果と無処理果の内部成分を比較したところ,両処理区の収穫期の果実では構成糖,ペクチン,ヘミセルロースおよびセルロース含量には大きな違いは認められなかった.しかし,果実内維管束組織内およびその周辺細胞内におけるデンプン粒について観察したところ,無処理果では収穫期までデンプン粒が存在したが,エセフォン処理果では無処理果よりも早期にデンプン粒が減少し,収穫期には消失している果実が多い傾向にあった.これらのことから,エセフォン処理は果肉障害の発生を抑制することが明らかとなり,また果肉障害の発生には収穫期における維管束組織内およびその周辺細胞内に存在するデンプン粒が関連している可能性が示唆された.
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