植物の遺伝子組み換えは、組織培養による再分化系の確立が前提であるにもかかわらず、多くの植物種において未確立または不安定である。そこで、圃場のトマトでは全茎切断(すべての茎頂の切除)により茎切断面に不定芽が多数形成されることに着目し、これらの組織培養への適用法を検討した。 ナス4品種を用い、in vitro全茎切断(下胚軸で切断)おける再分化の品種比較を行った。その結果、‘紫水’、‘千両二号’および‘黒曜’の不定芽形成率は100%だったのに対し、‘庄屋大長’では80%だった。切断6週後におけるシュート形成数は ‘紫水’が最も多く、続いて‘千両二号’、‘黒陽’そして‘庄屋大長’となり、それぞれ8.1、7.6、5.8および3.4本であった。シュートの発根率は、全品種で100%であった。したがって、in vitro全茎切断は、再分化率に品種間差異があるものの、採取したシュートは全て発根することが明らかになった。 根におけるサイトカイニンの生合成は、土壌中の窒素が十分であると制御される(Takeiら,2002)ので、培地の窒素欠乏によって不定芽形成を促進できるか検討した。MS培地(以後、N充分培地)と窒素成分のみ47%に減少させたMS培地(以後,N欠乏培地)にナス‘紫水’を無菌播種し、3週間後に全茎切断して両培地に移植した。不定芽形成数は、N欠乏→N充分区が最も多く、1個体当たり20.5個、続いてN充分→N充分区、N欠乏→N欠乏区、N充分→N欠乏区の順となり、それぞれ13.7,8.4,0個であった。1 cmに達したシュートは、N欠乏→N充分区で最も多く、形成時期も2週間早かった。カボチャでは、全茎切断による不定芽形成は認められなかったが、N欠乏→N充分によって不定芽が形成が(20%)された。したがって、全茎切断前の窒素欠乏処理は不定芽形成を促進することが明らかになった。
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