硬肉モモは、成熟に伴い溶質のモモと同様な果皮色の変化や糖度の上昇等が認められるが、エチレン生成の上昇や果肉の軟化は起こらない。硬肉モモは、エチレン生合成経路の鍵酵素であるACC合成酵素遺伝子ファミリーの一つであるPpACS1の発現が、果実成熟時期特異的に抑制されているためエチレン生成が起こらず、軟化しないことが明らかになっている。硬肉モモと溶質モモを用いたマイクロアレイ解析から、モモ果実成熟初期のエチレン生成にオーキシンが関与している可能性が考えられた。本年度は、果実の生育期間を通じた果肉内IAA含量について検討したところ、溶質モモ'あかつき'では、収穫適期に果肉内でIAA含量の増加が認められたが、硬肉モモ'まなみ'では果実の生育期間を通じて、IAAは検出限界以下だった。モモ果実において、IAAの生合成場所、供給源、移動等は明らかにされていない。そこで、モモ果肉におけるIAA移動の方向性を解析するために、果皮から核側に円柱状の果肉ディスクを作成し、片側に高濃度のIAAを塗布し、3時間放置後にディスクを3分割し、それぞれの部位におけるIAA誘導性PpACS1の発現様式を調べた。その結果、硬肉モモおよび溶質モモにおいて、高濃度IAAを果皮側に塗布した時には、塗布しなかった核側におけるPpACS1の発現量は低かったが、核側に塗布した時に、塗布しなかった果皮側においてもPpACS1の発現が認められたことから、IAAは果肉内を核側から果皮側へ移動していることが推測された。また、硬肉モモにおいても、果肉内のIAAの移動には問題がないことが明らかとなった。
|