申請者はRed clover necrotic mosaic virus (RCNMV)の移行タンパク質(MP)の細胞内局在性と移行能との関連について調べた。C末端70アミノ酸を欠失させた変異MPは、一本鎖RNA結合能や原形質連絡の開閉機能に影響を受けることなく、小胞体への斑点状の局在(ウイルス複製酵素とそこで会合する)だけが出来なくなり、また変異MPをコードするウイルスの細胞間移行機能もこれと平行して落ちることを明らかにした。このことはMPの小胞体膜でのウイルス複製酵素との会合がRCNMVの細胞間移行にとって必須の過程であることを示すものである。この結果をVirology誌に投稿し、受理された(Kaido et al.2011 in press)。さらに、親水性アミノ酸残基が連続する領域に欠失を導入した変異MPシリーズを作製し、異常な細胞内局在性を示し且つ細胞間移行機能を失った多種類の変異MPを得た。これらのうち細胞壁局在性を失った変異体はいずれも巨大な塊状となって細胞周縁部の小胞体膜に局在したことから、細胞内輸送経路に関与する宿主因子との相互作用の欠損が疑われる。 Tandem affinity purification法と質量分析によってベンサミアナ植物の全可溶性タンパク質画分から得られた、RCNMV MPと相互作用する可能性が高いと判定された宿主因子候補タンパク質をコードする遺伝子のうち、Glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase (GAPDH-A)遺伝子をクローニングした。リンゴ小球型潜在ウイルス(ALSV)を利用してGAPDH-A遺伝子のサイレンシングを誘導した植物において、RCNMV増殖レベルが低下することを示す結果を得た。さらに、GAPDH-Aの細胞内局在性が、RCNMV RNAの複製と関連して葉緑体から小胞体膜へと変化する様子が観察された。また予備実験の結果では、GAPDH-A遺伝子をサイレンシングした植物細胞ではRCNMV MPの細胞内局在性に異常の見られる例が多数見つかったことから、GAPDH-AはMPの細胞内での正常な局在性に関与する宿主因子ではないかと考えられる。
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