研究概要 |
申請者は二分節型ゲノム構造を取るプラス鎖RNAウイルスでマメ科植物の重要病原ウイソレスであるRed clover necrotic mosaic virus (RCNMV)の細胞間移行機構の分子レベルでの解明を目指している。これまでの研究で、(1)RCNMVの細胞間移行に中心的な役割を果たす移行タンパク質(MP)はRCNMV RNA1を複製する複製酵素複合体にリクルートされて細胞表層の小胞体(ER)膜上に形成される小斑点状構造に局在し、(2)この局在性はRCNMVの細胞間移行にとって必須であることを明らかにした(Kaido et al.,2009,2011)。 昨年までにRCNMV MPと相互作用する宿主植物(Nicotians benthamiana)因子を、Tandem affinity purification法と質量分析によって多数同定した。平成23年度の研究では、それらの中から葉緑体局在シグナルを持つGlyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase (GAPDH-A)遺伝子をクローニングし、RCNMV増殖における役割について調べた。ウイルスベクターによってGAPDH-A遺伝子をサイレンジンクした植物葉におけるRCNMV増殖レベルは、サイレンジンクを誘導していない葉と比較して低下するが、プロトプラストではサイレンジンクの有無に拘わらず同レベルのRCNMV RNAおよびMP蓄積が観察されたことから、GAPDH-AはRCNMVの細胞間移行に関与する宿主因子であり、MPの安定性には関係無いことが明らかとなった。またRCNMV RNA1の複製が起きる条件下で、葉緑体局在性のGAPDH-Aタンパク質はER膜上の小斑点状構造へも局在するようになった。さらに、GAPDH-A遺伝子をサイレンジングした植物細胞ではRCNMV MPのER膜上の小斑点状構造局在が著しく減少した細胞が多数観察された。これらの結果と、RCNMVの複製酵素複合体を構成するp27タンパク質と相互作用する因子としてGAPDH-Aが単離されたという結果(Mine and Okuno, unpublished results)とを総合して、GAPDH-AはRCNMVの複製酵素複合体中のp27とMPとを橋渡しする因子であり、MPが複製酵素複合体中のRCNMV RNA1を捕捉するのを助けることを通じてRCNMVの細胞間移行に寄与するというモデルを提唱したい。
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