研究課題/領域番号 |
22580054
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
藤村 真 東洋大学, 生命科学部, 教授 (50297735)
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キーワード | 赤かび病 / トリコテセン / ストレス応答 / cAMP / アカパンカビ / MAPキナーゼ |
研究概要 |
麦類赤かび病菌のストレス応答とカビ毒(トリコテセン)合成制御の関係を明らかにするために、当初計画に基づき研究を展開し、下記の成果を得た。 1.赤かび病菌のAキナーゼ触媒サブユニット遺伝子の破壊株の作成とトリコテセン合成への影響解析 赤かび病菌のトリコテセン生産が糖源による制御を受けていることから、糖源を感知して応答すると考えられるcAMP-PKA経路の関与を調べるために、Aキナーゼの触媒サブユニット(FgPKA1)遺伝子のノックアウト株を相同組換え法を用いて作製した。FgPKA1欠損株は、やや生育抑制が認められたが、トリコテセン合成能は野生株と顕著な差は認められなかった。ことのとから、cAMP-PKA経路のトリコテセン合成への貢献度は低いと推定された。 2.マイクロアレイを用いたcAMP-PKA経路の下流で制御される遺伝子群の同定 cAMP-PKA経路で制御される糸状菌の遺伝子群を明らかにするために、アカパンカビのcAMP合成酵素欠損cr-1変異株を用いて、cAMPの添加による誘導遺伝子の探索を行った。マイクロアレイ解析により、誘導遺伝子の候補を選抜したが、リアルタイム定量PCRで顕著な発現誘導が認められた遺伝子はほとんどなく、実験手法の改善が必要であると考えられた。 3.転写因子FgATF1破壊株の分生子形成能の再検定 赤かび病菌のFgOS-2MAPキナーゼは、トリコテセン合成を制御するものの、その下流の転写因子であるFgATF-1欠損株では、トリコテセン合成に顕著な異常は認められなかった(前年度報告)。しかし、分生子形成能を欠損した株を親株として使用していたため、改めて分生子形成能を有する赤かび病菌を親株として、FgATF1破壊株を作製した。その結果、FgATF1遺伝子の破壊はトリコテセン合成能を消失することが明らかになった。このことから、FgATF1はトリコテセン合成を制御する転写因子であるが、その制御は分生子形成能と強く関連していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ストレス応答MAPキナーゼの下流に存在する転写因子FgATF1がトリコテセン合成に関与すること、および下流で制御されている遺伝子群を同定した。また、RCO-1転写因子が、ストレス応答MAPキナーゼの制御を受けていることを明らかにした。これらのデータはいずれもこれまでに報告のないものであり、学術的な価値が高いと考える。また、cAMP-PKA経路の下流で制御されている遺伝子群の同定には至らなかったものの、本経路のトリコテセン合成制御は限定的である結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
当初、cAMP-PKA経路がトリコテセン合成制御に関与している可能性を想定していたが、本経路は重要ではないとこが明らかになったことから、この部分の実験計画を縮小し、ストレス応答で制御される遺伝子群と比較ゲノム解析に注力して、研究を推進する。
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