赤かび病菌の浸透圧シグナル伝達(FgOS)経路は、トリコテセン合成に関与している。FgOS経路はアカパンカビのOS経路と共通性が高く、変異株の形質や下流で制御される遺伝子群にも共通性が高いことを明らかにしてきた。一方、FgOS経路とクロストークが予想されたcAMP-PKA経路の変異株は、トリコテセン合成への関与が認められず、アカパンカビの変異株と形質が大きく異なった。本年度は、cAMPの下流で制御されている遺伝子の探索系の構築および赤かび病菌とアカパンカビで各種ストレスにより誘導される遺伝子群の共通性および相違性について検証した。まず、cAMP合成酵素の欠損cr-1株を利用して外部から与えたcAMPに応答する遺伝子の同定をアレイ解析したが、誘導遺伝子を同定できなかった。そこで、さらに高感度にcAMPに応答する株として、cAMP合成酵素と分解酵素を両方欠損したcr-1; pde-2二重変異株を作製した。cr-1; pde-2株はcr-1株よりも1/100のcAMP濃度に反応し、その効果が持続した。本株を使用することにより、cAMP-PKA経路の下流で制御される遺伝子を同定することが可能になると考えられる。さらに、各種殺菌剤により誘導される遺伝子について、赤かび病菌とアカパンカビの相関を調べた。酸化ストレスを誘発するメナジオンおよび電子伝達系の脱共役剤であるフルアジナムは、glutathione S-transferase遺伝子やoxidoreductase遺伝子を顕著に誘導し、赤かび病菌とアカパンカビ間に高い共通性が認められた。エルゴステロール合成阻害剤であるメトコナゾールは、その標的酵素ERG11遺伝子の誘導が認められた。以上から、赤かび病菌とアカパンカビは分類上も比較的近縁であり、相違点はあるものの殺菌剤に対する応答に高い共通性があることが明らかになった。
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