マダニは人獣共通感染症の媒介者として知られ、特に畜産業に大きな被害を与えている。これら感染症の予防のためには媒介システム、特にマダニ自身の生体防御機構を理解する必要がある。昨年度までの研究によりマダニから抗菌ペプチドであるDefensinが単離されている。またDefensinの発現がRelによって誘導されることが示唆された。 今年度の本研究ではO.moubataにおける中腸でのDefensinの生理機能の解明、また卵合成におけるTarget of Rapamycin(TOR)タンパクの持つ役割を明らかにする事を目的とした。RNA干渉によりOmRelのノックダウンを行ったところ、Defensinの発現量が有意に抑制された。そこでOmRelの発現阻害を行った本種にライム病ボレリア菌を感染させ細菌数を観察したところ、発現阻害を行わなかった個体に比べボレリア菌が増加する傾向が見られた。この結果より抗菌ペプチドであるDefensinが特定の感染症に対して抗菌作用を持つことが予想される。 またDefensinは無菌状態の血液を吸血した際にも発現するという報告があり、栄養刺激によって発現が誘導されている可能性もある。多くの昆虫種において栄養刺激による制御系の要としてTORの働きが近年重要視されており、マダニにおいても重要な働きをしていると考えられる。TORの阻害物質であるラパマイシンをマダニの体内に注入したところ、吸血後の卵黄タンパク合成が抑制された。また産卵数も有意に減少した。このことよりマダニにおいてもTORが栄養刺激による制御系で大きな役割を果たしていることが示唆された。 今後はDefensinの持つ免疫機能、また栄養刺激に対する誘導についてより深く調査する必要がある。これら免疫機構の解明はダニをはじめとする吸血性の節足動物の防除法および感染症の予防の開発につながることが期待される。
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