昨年度までの長野県における野外調査の結果、複合交信かく乱剤を施用してもタマナギンウワバの発生が完全に抑えられないのは、市販の交信かく乱剤に含まれているキンウワバ用の成分に、成虫が反応していないことが考えられた。昨年度と同様ガスクロマトグラム-触角電位検出器(GC-EAD)を用いて、タマナギンウワバの成分ではないが、かく乱剤中に多く含まれている他種の成分についてもオスの触角に反応がみられたことを確認した。そこで昨年に引き続きこれらの成分をタマナギンウワバの成分に加えて野外試験を行い誘引阻害を再確認したまた室内実験でこれらの成分の存在下で交尾の阻害が起こることが明らかとなった。よって市販の交信かく乱剤は、タマナギンウワバの成分よりも高い濃度で含まれている別の成分の影響で、交信かく乱が起きづらいことが判明した。またタマナギンウワバの成分比と同じルアーを用いて交信かく乱を行ったところ、市販の成分比に対して誘引阻害が明らかであった。 さらに「成虫の活動性」を明らかにすべく、タマナギンウワバ成虫の飛翔行動について室内実験を行った。実験は昨年度に引き続き、成虫の飛翔活性を明らかにするアクトグラフと、強制的に飛翔させてその飛翔距離を明らかにするフライトミルを用いて、未交尾メスと交尾メスの比較を行った。その結果、個体数を多くしても羽化後4~6日後の交尾メスは未交尾メスよりも飛翔活性が有意に高いことがわかった。また飛翔距離においては未交尾メスと交尾メスは有意な差がなく、どちらも一晩に6km程度飛翔能力があることが判明した。交尾したメスでも飛翔活性が高く、未交尾メスと変わらない距離を飛翔できる能力を持つことは、本種が交尾後もほ場内を活発に移動できる可能性を示唆しており、交信かく乱が起きづらい要因となっていることが明らかとなった。
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