研究概要 |
ヒゲナガカワトビケラ(水生昆虫)が産生するバイオシルクタンパク質の調製法の確立と基礎的特性の解析を中心に研究を進めた。水生幼虫の絹糸腺細胞抽出液を酢酸透析して得られる沈殿物は、高濃度の尿素と還元剤の存在条件により可溶化(バイオシルク溶液)することが可能であり、その主成分はフィブロインH鎖と推測される約350kDaのタンパク質であることを検証した。しかし、プロテアーゼ分解による分子量低下が認められたため、絹糸腺細胞抽出液の内在性プロテアーゼ活性を分析した結果、高レベルのトリプシン様活性が検出され、この活性はプロテアーゼ抑制剤であるロイペプチンの添加により著しく低下することが明らかとなった。ロイペプチン存在条件にてバイオシルク溶液を調製したところ、フィブロイン様タンパク質の分解が抑制されると共に、バイオシルクを構成する4種類のタンパク質成分の存在を明らかにすることに成功した。これらを高分子量側からSmsp-1(フィブロイン様タンパク質)、Smsp-2、Smsp-3、Smsp-4と命名した。水生昆虫が水中で吐糸したシルク繊維の特性を分光分析(FTIR)および熱挙動解析(DSC)により解明した。シルク繊維の水生昆虫タンパク質のIRスペクトルにおいて、Amide Iバンドの1630,1660cm^<-1>に,AmideIIバンドの1515,1540cm^<-1>に吸収ピークが観察された。分光分析の解析により、水生昆虫のシルク繊維は,βシート構造とランダムコイル構造とを同時に含む構造を有するものと推定した。シルク繊維のDSC曲線には,熱分解による吸熱ピークが236℃に出現することが確認された。また、ヒゲナガカワトビケラ絹糸腺タンパク質Smsp-2,Smsp-3,Smsp-4のN末端アミノ酸配列をもとに設計した縮重プライマーを用いたPCR法により、絹糸腺cDNAライブラリーから各遺伝子のクローニングを試みた。これまでのところ、Smsp-2,3,4遺伝子のクローニングには至っていないが、共通モチーフ配列を持つ遺伝子や相同配列未知の数種の新規遺伝子のクローニングに成功した。今後、これらの興味深い新規絹糸腺遺伝子についても、バイオシルクタンパク質としての機能特性解析を進める予定である。
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