研究課題/領域番号 |
22580060
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
塚田 益裕 信州大学, 繊維学部, 教授 (20414922)
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研究分担者 |
阿部 康次 信州大学, 繊維学部, 教授 (00126658)
野村 隆臣 信州大学, 繊維学部, 助教 (90362110)
新井 亮一 信州大学, ファイバーナノテク国際若手研究者育成拠点, 助教 (50344023)
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キーワード | 水生昆虫 / 素材利用技術 / 細胞培養床材 / 遺伝子工学 / タンパク質工学 / 幼虫 / 材料工学 / 吸着機構 |
研究概要 |
今年度も、ヒゲナガカワトビケラ(水生昆虫)が産生するバイオシルクタンパク質の調製法の確立と基礎的特性の解析を中心に研究を進めた。まず、バイオシルク発現調製を目指してバイオシルク関連タシパク質の遺伝子クローニングを行った。ヒゲナガカワトビケラ絹糸腺の各タンパク質のN末端アミノ酸配列をもとに設計した縮重プライマーを用いたPCR法により、絹糸腺cDNAライブラリーから各遺伝子のクローニングを行った。その結果、Smsp-2,Smsp-3,Smsp-4をコードするcDNAのクローニングに成功した。また、Smsp-1のC末端断片をコードするcDNAクローンも得られた。特に、Smsp-2とSmsp-4は、BLAST検索の結果、有意な相同性を持つ既知タンパク質は無く、新規なタンパク質であることが判明した。Smsp-2アミノ酸配列(167aa)の大部分はG、Y、Dからなる特徴的な反復配列から構成されていた。Smsp-4(132aa)では、GGWを含む反復配列が特徴的であった。これらは、今後、バイオシルク関連タンパク質の組み換え発現系の構築につながる成果と考えられる。 水生昆虫が営繭する過程で作成する糊状試料および繊維状試料を湿潤状態と乾燥状態における^<13>C CP-MAS固体NMRスペクトルを測定した。湿潤状態と乾燥状態の間でスペクトルの共鳴位置や強度に大きな違いは見られず,水中で吐糸形成された試料が乾燥する過程で試料内に含まれる水分が蒸発しても,試料分子と水分子の凝集性が低下しても試料の化学構造に及ぼす影響が極めて少ないことを意味している.ヒゲナガカワトビケラが吐糸したシルクが水で膨潤状態にあっても水を失い乾燥状態にあってもNMRスペクトルに変化が無く,水環境が与えるタンパク質の立体構造への影響が小さいことが確認された.ヒゲナガカワトビケラのシルクの化学構造が全体的に結晶質的なためか,特徴ある化学構造により水分子の影響を受け難いためであると考えられる. 最終年度は、これらの興味深い新規絹糸腺遺伝子についても、バイオシルクタンパク質としての機能特性解析を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度までに、ヒゲナガカワトビケラのバイオシルクタンパク質の調製法の確立と基礎的特性の解析を中心に研究を進め、絹糸腺細胞抽出液を酢酸透析して得られる沈殿物は、高濃度の尿素と還元剤の存在条件により可溶化(バイオシルク溶液)の最適条件を新たに見出し、その主成分がタンパク質であることを明らかにした。バイオシルクを構成する4種類のタンパク質成分の存在を明らかにし、これらの遺伝子のクローニングにも世界に先駆けて成功した。また、水生昆虫が営繭する過程で作成する糊状試料および繊維状試料を湿潤状態と乾燥状態における^<13>C CP-MAS固体NMRスペクトルを測定し、新たな成果を明らかにすることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
当該研究は、上記の理由で順調に進展しており、最終年度である本年度は、次の点に留意して総合的な研究を進める予定である。これまでの基礎的な研究成果の蓄積に基づいて、今後は、バイオシルク関連タンパク質の組み換え発現系を構築し、さらに水生昆虫のバイオシルク表面における有用細胞の付着・増殖性を追求し、医工学分野、再生医療分野で利活用できる新素材の開発に直結する研究を進展させる。
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