乾燥表標本を用いた解析に先立ち、本州から与那国島までの75地域で採集された295個体のゴマダラカミキリ類について遺伝的多様性の解析を実施した。ここでは個体毎にミトコンドリアDNA内のCOI、tRNAleuおよびCOII遺伝子を含む約1.2kbのフラグメントと、16Sおよび12S rDNAの一部とtRNAval遺伝子を含む約1.4kbのフラグメントを増幅し塩基配列を調べ、分子系統地理学的解析を実施した。その結果、日本産の集団は大きく二つのグループ(グループAとB)に分けられ、さらに七つのサブグループに分割される事が明らかとなった。グループA内の4サブグループのうち、3サブグループの分布域は概ね本州、四国および九州に分かれていたが、九州型は中琉球地方でも検出された。残る1サブグループは茨城県産の1個体より検出されたものだが、中国産種と同じ塩基配列を示した。同様に茨城産の別個体でも、九州と南西諸島の一部に分布するものと同じ塩基配列を示した。グループBの2サブグループはそれぞれ中琉球および南琉球地方に特異的であったが、他のサブグループは両地方から検出された。特に沖縄本島では、地域固有と考えられるDNA型と九州からの侵入集団と考えられるDNA型が北部に限られた分布を示し、その他の地域は台湾からの侵入集団と考えられるDNA型で占められていた。これらの結果から、ゴマダラカミキリの各サブグループはもともと地理的に隔離されていたのであるが、近年大幅な撹乱が起きつつあることがうかがわれた。特に南西諸島では、過去に九州と台湾からの少なくとも2回の侵入を受けていると考えられた。現在アジア産の近縁種と1970から1990年代に南西諸島で採集された乾燥標本を用いた解析法について検討しているところである。なお上記の成果は日本応用動物昆虫学会英文誌に投稿し印刷中の状態となっている。
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