本研究は、ダイズ栽培地の緯度が日本とほぼ同じであるアメリカ合衆国の土着ダイズ根粒菌の分布と多様性を調査し、根粒菌の土着化と優占化に関する知見を蓄積し、有用根粒菌の実用的接種技術の開発に資することを最終目的として研究を進めている。これまでの研究で、日本の土着根粒菌においては、北から南へ根粒菌フロラが変遷しているという結果を得ているため、主として土壌温度および土壌の理化学性を解析対象の環境因子とし、アメリカおよび東南アジアにおける土着ダイズ根粒菌の分布を、遺伝子多型を基に数理生態学的に検証することにしている。平成22年度において、農林水産大臣の許可を取得し、USDA-ARSの研究者の協力の下、アメリカのダイズ圃場の土壌(Florida、Louisiana、Georgia、Alabama、Kentucky、North Carolina、Ohio、Michigan)を採取・輸入した。植物インキュベーターにおける一定環境下で、各種ダイズ品種を栽培し、着生根粒を採取した。本年度においては、アラバマ、ケンタッキー、ミシガンの土壌から、根粒菌のカルチャーコレクションを調製した。根粒菌のゲノムを抽出し、16S-23S rDNA ITS領域の制限酵素断片長多型による解析を行った。その結果、ミシガンではB.japonicum USDA123株、ケンタッキーではB.japonicum USDA110株、アラバマではB.elkanii USDA76株のクラスターに含まれる株が優占していた。この結果は日本における土着ダイズ根粒菌の分布と類似しており、ダイズ根粒菌の土着化・優占化に及ぼす環境因子として温度の影響を強く示唆した。
|