生物の中にはゲノムDNA上にパントテン酸キナーゼ(CoaA)ホモログ遺伝子を2つ持つ生物が存在する。枯草菌(Bacillus subtilis)もその一つで、原核I型CoaA(BsCoaA)と原核III型CoaA(BsCoaX)を持っている。平成24年度はこれら酵素の生体内での役割を解析した。 両組換え酵素を解析した結果、パントテン酸キナーゼ活性を示し、中性付近、生育温度の30℃付近で十分活性を示したので、生理的条件下で機能することが確認された。また、BsCoaAの酵素活性は200μMのCoA、アセチル-CoA、あるいはマロニル-CoAで95%以上阻害された。一方、BsCoaXは阻害されるものの、1mMという高濃度でも50%以上の活性が残存しており、CoAおよびアシル-CoAの生理的濃度でも阻害を受けずに十分に機能することが分かった。 B.subtilisのゲノムDNA上にある2つのCoaAホモログ遺伝子は両方ともパントテン酸キナーゼをコードしていることが明らかとなったので、両酵素の細胞内での役割をBsCoaA遺伝子破壊株およびBsCoaX遺伝子破壊株を用いて解析した。生育に関しては、野生株、および2つの破壊株間でほとんど違いは観察されなかった。パントテン酸キナーゼ活性は、野生株と比較して、BsCoaA遺伝子破壊株が約1/5、BsCoaX遺伝子破壊株がおよそ半分であった。本結果は細胞内CoAプールにも反映されており、BsCoaA遺伝子破壊株が野生株のおよそ半分、BsCoaX遺伝子破壊株は同等のプールサイズを形成していた。 以上の結果は、B.subtilisのCoA生合成経路で主として機能しているのはBsCoaAであり、細胞内CoAプールのサイズは優勢に機能しているBsCoaA活性のCoAおよびアシル-CoAなど最終生産物に対する感受性で支配されていることを示している。
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