研究課題/領域番号 |
22580083
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
竹中 慎治 神戸大学, 農学研究科, 准教授 (40314512)
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キーワード | アミノ基修飾酵素 / N-アセチルトランスフェラーゼ / Chryseobacterium / 2-フェニルグリシン / アセチルCoA |
研究概要 |
本研究では、「アセチル基転位酵素によるアミン類から高付加価値のあるアセチルアミド類の生産」を最終目標とし、研究期間内では物質変換にかかわるN-アセチル化酵素の特性解析を主目的とした。昨年度に続き、脂肪族アミンのアミノ基を立体選択的にN-アセチル化する酵素生産菌についてその酵素特性を調べ、目的にかなう新規酵素を用いた物質変換に対する知見を得ることができた。 医薬品合成時の鍵物質として報告されているキラルアミン(DL-2-フェニルグリシン,DL-2PG)のアミノ基を立体選択的にN-アセチル化できる菌株Chryseobacterium sp.5-3Bおよび7-3D株について酵素の生産特性や酵素の性質を明らかにした。両株について0.2%DL-2-フェニルグリシン-1.0%ポリペプトン添加培地(pH8.0)での生育とDL-2PGのモル変換率や培地中に蓄積したN-アセチル化物のエナンチオマー過剰率を比較した結果、5-3B株が生育や変換率(モル変換率49%、エナンチオマー過剰率99.5%)の点で優れていた。5-3B株を培養し、N-アセチル化にかかわる酵素を調べた結果、アセチルCoA依存型N-アセチルトランスフェラーゼであり、L-体のN-アセチル化物((2S)-アセチルアミノ-2-フェニル酢酸)を過剰に蓄積していた。本酵素を各種クロマトグラフィーにより精製し、Native-PAGEにおいて活性染色およびCBB染色結果から、精製酵素は単一と判断した。精製酵素を用いて酵素の特性を調べた。本酵素はpH7.5、60℃において最大活性を示した。また、SH基修飾試薬について酵素阻害を調べたところ、PCMB、DTNBにより顕著に阻害が見られた。本酵素の基質特異性は高く、試験したアミン類の中でL-2PGに対して高い活性を示した。また、2PGの誘導体の中では、2-クロロフェニルグリシンに対しても活性を示した。一方、その他の脂肪族アミン類、芳香族アミン類、芳香環を有するアミノ酸に対してはほとんど活性を示さなかった。精製酵素を用いてDL-2PGから生成した2-アセチルアミノ-2-フェニル酢酸の光学純度を調べたところ、エナンチオマー過剰率(e.e.)は99.5%以上((2S)2-アセチルアミノ-2-フェニル酢酸過剰)であった。同成果は、学会発表(日本農芸化学会-一般講演)にて報告した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特許出願の関係上研究実績の概要には報告していないが、本酵素のN末端アミノ酸配列の解析から、本酵素は2-フェニルグリシン類に対して特異的に反応を示す新規なNアセチルトランスフェラーゼであった。また、既報のChryseobacterium属細菌のゲノム情報から、5-3B株由来同遺伝子のクローニングのめどが立ち、すでに遺伝子の大部分をクローニング済みである。計画通り、最終年度H24年度は、組み換え体による変換に着手できる。
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今後の研究の推進方策 |
最終目標は、大腸菌組み換え体による同酵素の大量生産と2-フェニルグリシンの効率的変換法の確立である。親株由来酵素の特性解析は終了したため、5-3B株由来N-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子をクローニング・解析後、大腸菌にて同遺伝子を効率的に発現させる条件を検討する。N-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子の大腸菌での発現は、アリルアミンN-アセチルトランスフェラーゼ遺伝子の発現で必要な手法を確立したため、それにならって実施する予定である。本酵素はアセチルCoA依存型酵素のため、2-フェニルグリシン類の効率的変換にはアセチルCoAの生合成系またはCoASHの再生系の確立が望ましい。これについても解糖系やTCAサイクルの代謝経路を参考にしながら、代謝遺伝子のクローニングと発現用ベクターへの組み込みを行うつもりである。同酵素は2-フェニルグリシンにより誘導的に生産されることから、遺伝子クローニングの過程で、同遺伝子の発現機構や調節遺伝子の役割を明らかにする。また、2-フェニルグリシンおよびそのN-アセチル化物の毒性試験を行うことで、5-3B株が同酵素遺伝子を有する生理的意義についても考察する。原著論文としてまとめて報告する予定である。
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