ペクチンはホモガラクチュロナン領域とラムノガラクチュロナン(RG)領域から構成されるヘテロ多糖であり、様々な修飾基をもつ。優れたペクチン分解能を有するPenicillium chrysogenum によるペクチン分解機構を明らかにする目的で、本研究課題では本ゲノム中に存在する54種の推定ペクチン分解系遺伝子の機能解析を目指している。本年度終了時までに全遺伝子のクローン化を行い、そのうち30種のタンパク質については反応特性解析を完了した。本年度に得られた結果の中、本概要ではRG分解系酵素の3種について記載する。本菌培養上清中で主要なRG分解酵素であるRGL1は、RG多糖を特異的に切断し、非還元末端に不飽和ガラクチュロン酸(ΔGalA)をもつRGオリゴ糖を生成したことから、エンド-RGリアーゼであることが判明した。また、RG側鎖のアラビナンを部分的に除去することにより分解活性は増大した。上記で生成するRGオリゴ糖は、エキソ型のRGリアーゼ(エキソ-RGL)により2糖単位(ΔGalA-Rha)で速やかに分解された。また、その反応生成物の解析結果より、本酵素はRG側鎖のガラクトースをバイパスできることも判明した。不飽和ラムノガラクチュロニルハイドロラーゼ(URH1)はシグナルペプチドがなく、菌体内酵素と推定されるが、本酵素はエキソ-RGLにより生成するΔGalA-Rhaを加水分解した。なお、本酵素は非還元末端にΔGalAを有する種々のオリゴ糖には活性を示さなかった。以上の結果より、P. chrysogenumにおいて、RG多糖はRGL1とエキソ-RGLの相乗作用によりΔGalA-Rhaまで分解され、続いて菌体内でURH1により糖化されるものと考えられる。なお、真核生物由来のエキソ-RGLおよびURHはこれまでに報告例はなく、カビによるペクチン分解における新たな知見を得た。
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