研究概要 |
本研究は,これまで解析例がないマルチ触媒ドメインを有する糖質加水分解酵素の触媒ドメイン間での連携的反応や複数存在する基質結合ドメインとの関係について,変異酵素を用いた酵素化学的アプローチとX線結晶解析やNMRを用いた構造生物学的アプローチによって詳細に検証することで,マルチ触媒ドメインを有する糖質加水分解酵素の存在意義を明らかにするとともに高効率糖質加水分解酵素を設計するための分子基盤を得ることを目標としている.今年度の研究成果は以下の通りである. 1. Streptomyces corchorusii由来細胞表層結合型アミラーゼ(CSAA)のドメイン解析 CSAA遺伝子の放線菌での発現系を確立し,全長遺伝子の発現産物が本菌株由来の酵素と同じように細胞表層に局在し,同様の酵素化学的性質を示すことを確認した.またドメイン解析のための,各ドメイン欠損変異酵素を生産するための発現プラスミドの構築も完了した. 2. Paenibacillus polymyxa由来β/α-アミラーゼに存在するCBM25のNMRによる構造解析 NMRによってタンデムに並んだCBM25およびそれらの単量体の立体構造および基質結合部位を決定した.またX線小角散乱測定や動的光散乱法を用いた構造解析によって,ダンベル様構造を示すタンデムに並んだCBM25がβ-サイクロデキストリンとの結合に伴い,64Aから45Aに変化することが明らかとなり,CBM25間を繋ぐリンカーがフレキシブルであり,タンデムに並んだCBM25がβ-サイクロデキストリンに沿うように構造変化しうることが示唆された.さらに,可溶性リガンドに対する結合に関する熱力学パラメータについて,等温滴定型熱量計を用いて求めた.また不溶性デンプンに対する結合活性(K_D)について,Langmuirの式に基づいた解析によって求めた結果,タンデムに並んだCBM25は単量体のものと比較して約30倍強い親和力を有することが判明し,各単量体が協調的に働くことで高親和力を発揮していることが示された.
|