本年度は、下記の3項目について検討し、記載の成果を得ることに成功した。これらの成果を有効に利用して、代謝工学的改変によりクエン酸生産糸状菌の能力を活用した糸状菌セルファクトリの創製を進めている。 (1)新規なサリチル酸脱炭酸酵素を利用した有用有機酸の生産 Trichosporon属酵母に新規なサリチル酸脱炭酸酵素を発見し、当該酵素が酵素的Kolbe-Schmitt反応に利用可能なことを明らかにした。とくに、水系反応によるp-アミノサリチル酸の酵素的生産に世界で初めて成功し、モル変換効率70%を達成した。 (2)ポリケタイド合成酵素(PKS)のクローニングと高発現株の作製 クエン酸生産糸状菌Aspergillus nigerに見出されたPKS遺伝子群について解析した。とくに、真核微生物には稀少なIII型PKS遺伝子1個を発見したため、当該cDNAを大腸菌を宿主として高発現させ機能の解析に利用した。大腸菌で生産させた組換えIII型PKSの反応について検討し、LC-MSやNMRにより各化合物を同定した。とくに、アセチル-CoAやマロニル-CoAを基質とした場合には、種々の構造のトリケタイドあるいはテトラケタイド型のピロンが合成されることを明らかにした。 (3)オキサロ酢酸加水分解酵素(OAH)遺伝子に関する遺伝子破壊株と高発現株の作製 クエン酸生産糸状菌の染色体上に存在するOAH遺伝子について破壊株を作製し、シュウ酸生産能力の欠失を確認した。また、OAH遺伝子高発現株を作製したところ、原株と比較して著量の生産量の増大が認められた。なお、これらの研究を実施するため、ku80遺伝子破壊等による高効率相同組換え系を作製し、目的とする遺伝子の選択的破壊を可能にした。
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