研究概要 |
平成22~23年度の期間に糸状菌セルファクトリの創製に必要な各種酵素遺伝子群の取得および当該酵素群の諸性質解析や、各種酵素遺伝子のクロコウジカビや大腸菌での発現に成功している。そこで、本年度は下記の項目について検討し、表記の成果を得た。 (1)植物系バイオマス資源を原料とした有用有機酸の新規生産法の開発 平成22~23年度に開発した糸状菌セルファクトリに関して、各種糖質やデンプン粕、バガス加水分解物等の植物系バイオマス資源を原料とした有用有機酸(シュウ酸やトランスアコニット酸等)の生産試験を行った。とくに、シュウ酸については、オキサロ酢酸加水分解酵素遺伝子を高発現させた糸状菌を用いることで、最適な培養条件下において、30g/lのグルコースを炭素源として28.9g/l(対消費糖収率96.3%)のシュウ酸生産に成功した。すなわち、従来の対消費糖収率の最高値48%(発行ハンドブック, 共立出版(2001))を上回る、発酵法によるシュウ酸生産法を確立した。 (2)希少な有用有機酸の生産を目的としたセルファクトリの創製 ジヒドロキシ芳香族カルボン酸やムコン酸誘導体等の、医薬品原料等として有望視されながら、従来では生産が困難であった希少な有機酸の糸状菌セルファクトリを利用した生産の実現へ向けた検討を行った。既往の研究により取得した芳香族カルボン酸への水酸基導入や開裂させジカルボン酸を生成する特異的酵素遺伝子を大腸菌で発現させ、有用有機酸の生産試験を開始した。とくに、カテコール1,2-ジオキシゲナーゼ遺伝子を発現させた大腸菌を用いた最適な条件下での反応では、消費カテコール当りのモル変換効率100%で、cis,cis-ムコン酸を生産することに成功した。また、部位特異的変異の導入により、サリチル酸デカルボキシラーゼの大幅な比活性向上に成功した。現在、糸状菌セルファクトリによる生産試験を実施中である。
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