多くの病原菌は、III型分泌装置と呼ばれる構造物を用いて、宿主細胞にエフェクターを注入することにより、その病原性を発現している。青枯病菌Ralstonia solanacearumは、ナス科植物をはじめ、200種類以上もの植物に感染し、枯死させる農業上深刻な被害をもたらす病害の原因菌である。本研究では、4800酵母破壊株から構成される酵母ジェネティックアレイにより、青枯病菌のエフェクターの宿主標的分子を網羅的遺伝学的手法により同定し、分子レベルでの青枯病菌の宿主への感染戦略を理解し、青枯病への予防対策へと応用することを目的とした。 青枯病菌エフェクター38個からその発現により酵母に増殖阻害作用を付与する5個のエフェクターを同定し、酵母における細胞内局在の解析、酵母ジェネティックアレイ法によりエフェクターと遺伝的相互作用を示す遺伝子の同定を試みた。その結果、GFPを融合させたエフェクターについて細胞内局在を解析したところ、細胞質、ゴルジ体、娘細胞膜などに特異的に局在することを明らかにした。娘細胞膜に特異的に局在するエフェクターについては、各種欠失変異体を作製し、増殖阻害作用と細胞内局在について解析した。その結果、本エフェクターは、N末端部分に細胞膜への局在化ドメインが、C末端部分には増殖阻害に機能するドメインが存在することが明らかとなった。また、別のエフェクターについては、酵母破壊株ライブラリーに網羅的に形質転換し、エフェクター発現により強い感受性を示す遺伝子破壊株を単離することで、エフェクターと遺伝的に相互作用する遺伝子の同定を試みた。その結果、cell wall integrity経路で機能するMAPキナーゼ経路変異体では、本エフェクターに対して超感受性を示すことが明らかとなった。現在、上述の2つのエフェクターに焦点を当て、酵母解析系を用いて宿主標的因子の同定を試みている。
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