研究課題
・核への移行を制御できるWRI1とグルココルチコイドレセプター(GR)との融合タンパク質を発現する形質転換植物体においてデキサメタゾン処理をした場合でも、既知のWRI1の標的遺伝子が活性化されず、WRI1の直接標的遺伝子の解析はできなかった。GRとの融合によりWRI1が機能しなくなると考えられる。・wat1 wat2二重変異株やwri1との三重変異株で見られた花器官が合着する表現型は、wat1単独変異株においても観察された。wat1変異株の花器官を用いたRNA Seqをおこなった結果、WRI1の標的の脂肪酸合成系遺伝子の一部の発現が低下していた。また、単独、二重、三重変異株において、脂肪酸合成系、ワックス合成系、クチン合成系遺伝子の発現を調べた結果、ワックスとクチン合成系遺伝子の発現に変化はなかったが、脂肪酸合成系の一部の遺伝子の発現は減少していた。さらに、合着が見られる変異株の表面を走査型顕微鏡で観察すると、ワックスの結晶構造に異常は見られなかったが、クチンに特徴的なナノリッジ構造が消失するといった異常が観察された。大腸菌で発現させた組換GST-WAT2はWRI1やWAT1と非常に似た結合コンセンサス配列を持っていた。これらのことから、花器官の合着は、脂肪酸量の低下に伴うクチン量の低下により引き起こされ、WRI1サブファミリーはいずれも脂肪酸合成系遺伝子群の発現を制御していると考えられる。・WRI1遺伝子の翻訳開始点から300bpから200bpまでの領域中に10bpごとに塩基置換を導入したプロモーターとGUSとの融合遺伝子を植物体に導入し、登熟種子における発現を解析した。その結果、250bpから241bpまでの領域に塩基置換を導入した場合のみ、登熟種子における発現が見られなくなった。この10bpの領域にWRI1の種子での発現を制御する転写因子が作用すると考えられる。
3: やや遅れている
害虫被害による形質転換植物の作製の遅れや、実験を担当している院生の就職活動などにより、当初の研究目的を達成できていない。また、GRとデキサメタゾンによる誘導系やGFPを使った細胞内局在観察など、期待していた実験系が確立できておらず、そのために結果が得られていない。
・WRI1の種子特異的発現に関して、必須であることを明らかにした10bpの配列に2bpごとの塩基置換を導入したGUSとの融合遺伝子を作製し、同様に種子登熟過程における発現を調べ、さらに詳しい塩基配列を決定する。また、明らかになった10bpの配列を用いた酵母One-Hybrid法により、この配列に作用する転写因子の同定を試みる。この際、転写因子のみからなるライブラリーを用いて効率化を図る。・花器官が合着する異常な表現型が観察される変異株において、脂肪酸、ワックス、クチンの定量をおこない、組成や蓄積量に変化が見られるか解析する。・これまでの研究から、WRI1、WAT1、WAT2の間で機能的な違いは無く、いずれもAW-boxに結合し、同じ遺伝子群を活性化すると考えられる。能動的転写抑制ドメインを付加した機能変換型の異所発現あるいは各プロモーターによる発現で、種子登熟過程を含めた生長過程で以上が見られるか、その時に遺伝子発現にどのような影響が出ているか調べることにより、確認・検証する。脂肪酸から合成されるワックスやクチンのうち、影響が見られるのはクチンのみであることから、同じ脂肪酸でも使い分けが存在する可能性があり、これらの異所発現などにより、その原因を探る。
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Plant Physiology
巻: 157 ページ: 706-717
10.1104/pp.111.180836