研究概要 |
酵母Pichia pastorisで作製したリコンビナントソーマチンIの構造を進め構造を決定した(PDB:3AL7)。由来ソーマチンIについても同様に構造解析を行い(PDB:3ALD)両者の構造の比較を行った。その結果、ソーマチンのバリアント間で異なるアミノ酸残基の電子密度マップの改善が見られた(1)。これまで良好な結晶を得ることができなかったソーマチンIIの精製法および結晶化条件の検討を行い、分解能1.27ÅのソーマチンIIの構造を決定することができた(PDB:3AOK)(2)。ソーマチンIとソーマチンIIので構造比較を行ったところ、双方で異なるアミノ酸残基の近傍において若干の構造変化が観察された。興味深いことに、ソーマチンIにおいて甘味発現に特に重要なリジン67はソーマチンIIではアルギニンであるが、このアルギニン側鎖が大きく揺らいでいた。もう一方の甘味に重要なアルギニン82も同様に大きく揺らいでいたことから、甘味受容体との相互作用は側鎖のフレキシビリイティーの高さが重要な役割を果たすという新しい知見を得る結果となった。また、ソーマチンは中性からアルカリ性条件下で加熱を施すと、急速に加熱凝集し甘味を失うことが知られている。そこでpH 8.0に於いて結晶化を試み、その構造を決定した(PDB:3VJQ)(3)。ソーマチンの甘味発現に重要なArg82、Lys67の変異体(R82A,R82K,R82Q,R82E,K67A)について結晶化条件を再検討し、大型放射光施設(SPring8)にて分解能が1.0Å以下の高分解能回折データーを収集することができた。また興味深いことに、結晶形が異なる(正方晶、斜方晶)結晶を取得することができた。それぞれの結晶形について、構造の精密化を行っている。甘味発現に重要なクレフト面に存在する酸性アミノ酸残基(Asp21,Asp55,Asp59,Asp60,Glu42,Glu89)について変異体作製を行い、甘味に与える影響について検討し、甘味が強化された変異体の取得に成功した。今後詳細に構造特性を明らかにすることにより新規な高甘味度甘味料の創出に繋がるものと考えられる。これまで、甘味タンパク質の甘味特性評価はヒトによる官能検査によって評価してきたが、客観的な評価が可能な甘味受容体を動物培養細胞に異種発現させた細胞を用いての甘味評価系の構築を行った(4)。さらに甘味受容体とソーマチンとの応答を検討したところ、ヒト型甘味受容体のサブユニットT1R3のシステインリッチドメインが重要である知見が得られた。 (1)Masuda et al., (2011) Acta Crystallogr.F67, 652-658. (2)Masuda et al., (2011) Biochem.Biophys.Res.Commun., 410, 457-460. (3)Masuda et al., (2012) Biochem.Biopbys.Res.Commun., 419, 72-76. (4)Ohta et al., (2011) Biocbem.Biopbys.Res.Commun., 413, 41-45.
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