研究概要 |
冬眠哺乳動物シマリスの冬眠は内因性の概年リズムによって遺伝子レベルで制御されていると考えられているが,概年性の冬眠の発現制御機構はまだ明らかになっていない。申請者は,冬眠と同期した発現を示す遺伝子の発現制御機構の解析などから,「冬眠動物では,脳の『冬眠中枢』から発信されるシグナルによって活性が制御される『概年性の転写因子』が肝臓などの末梢組織に存在することにより,全身において,冬眠の発現に関わる遺伝子の発現が統合的に制御され,「冬眠を行っている」というモデルを考えている。本研究では,この概年性の発現制御モデルを検証することにより,冬眠の発現の分子機構を解明していく計画である。 (1)概年性の転写因子探索のため,冬眠時と非冬眠時のシマリス肝臓の細胞抽出液中のタンパク質をアガロース二次元電気泳動で分離し,タンパク質の存在量とリン酸化の変動を解析した。その結果,冬眠に伴って50超のスポットのタンパク質のリン酸化の亢進が確認された。さらに,肝臓の核タンパク質の濃縮法を確立し,全細胞抽出液の解析では検出できなかった多数のタンパク質の検出に成功した。今後,冬眠に伴う核タンパク質の存在量およびリン酸化の変動を解析し,概年性の転写因子の探索を行う計画である。 (2)シマリス肝臓ににおける概年性の転写因子の候補であるHSF-1の発現は,心臓,腎臓においても冬眠に伴い同様の変動を示すことから,HSF+1は多くの末梢組織で概年性の転写因子として機能している可能性が考えられた。 (3)冬眠時と非冬眠時のシマリス肝臓のmicroRNAの発現をヒトmicroRNAのDNAチップを用いて比較解析した結果,冬眠時に発現量が数倍以上に増加している複数のmicroRNAの存在が明らかになった。今後,これらmicroRNAが冬眠時のHSF-1の発現抑制に関与しているかどうかを,シマリスの初代肝細胞を用いて解析していく計画である。
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