冬眠哺乳動物シマリスの冬眠は内因性の概年リズムによって遺伝子レベルで制御されていると考えられているが,概年性の冬眠の発現制御機構はまだ明らかになっていない。申請者は,冬眠と同期した発現を示す遺伝子の発現制御機構の解析などから,「冬眠動物では,脳の『冬眠中枢』から発信されるシグナルによって活性が制御される『概年性の転写因子』が肝臓などの末梢組織に存在することにより,全身において,冬眠の発現に関わる遺伝子の発現が統合的に制御され,冬眠を行っている」というモデルを考えている。本研究課題では,冬眠における概年性の転写因子の探索および概年性の転写因子による冬眠と同期した転写制御機構の解明を目的として研究を行ってきたが,本年度の研究実績は下記の通りである。 ① シマリス肝臓において,HSF-1タンパク質の量は冬眠に伴って変動(冬眠時に著しく減少する)し,概年性の転写因子として,HSP70遺伝子の冬眠に伴う転写を制御している。さらに,HSF-2も冬眠に伴い同様の量的変動を示し,クロマチン免疫沈降法やシマリス初代肝細胞を用いたノックダウン実験などにより,概年性の転写因子として,HSP70遺伝子の冬眠に伴う転写制御に関与していると考えられた。 ② シマリス肝臓においてHP-25遺伝子は非冬眠時特異的に転写が活性化される。HNF-4がHP-25遺伝子の肝臓特異的な転写を活性化するが,HP-25遺伝子のプロモーター領域のHNF-4結合配列の近傍にHSF-1が非冬眠時特異的に結合し,HNF-4による転写活性化を促進することが明らかになった。 ③ シマリス肝臓,腎臓,心臓のウエスタン解析により,これら末梢組織においてHSF-1タンパク質の量が冬眠時に減少することが明らかになったことから,HSF-1が概年性の転写因子として,冬眠の発現に関わる遺伝子の統合的な発現制御に関与している可能性が考えられた。
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