マイクロチューブ(鞘)形成細菌Sphaerotilus natansに対して溶菌処理を施して、マイクロチューブを調製した。マイクロチューブ中のチオール基を過ヨウ素酸酸化によってスルポ基に変換したところ、マイクロチューブは崩壊するとともに水溶性の酸性高分子が得られた。一方、マイクロチューブのチオール基に蛍光標識化剤を作用させ、蛍光標識化マイクロチューブを得た。マイクロチューブを炭素源として増殖することのできるグラム陽性細菌Paenibacillus koleovoransの培養液からマイクロチューブ分解酵素を調製し、蛍光標識化マイクロチューブに作用させた。生じた蛍光標識化分解産物を生成し、マイクロチューブ由来の酸性高分子とともにNMR測定での構造決定を試みた。その結果、鞘を形作る高分子はグルクロン酸、グルコース、ガラクトサミンからなる5糖の繰り返し単位を持つ複合多糖を主鎖とし、システイニルグリシンを側鎖とする新規な含硫複合糖質であることが判明した。また、マイクロチューブ分解酵素はガラクトサミン残基とグルクロン酸残基間のグリコシド結合を脱離反応によって切断することが明らかとなり、新規な多糖リアーゼであることが確かめられた。代表的な形態形成複合糖質であるペプチドグリカンとの化学構造における類似性を念頭に、マイクロチューブ形成含硫複合糖質をチオペプチドグリカンと命名することを誌上で提案した。さらに、その分解をもたらす多糖リアーゼに対してはチオペプチドグリカンリアーゼとの名称を提案した。
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