昆虫のγ-アミノ酪酸レセプター(GABAR)と抑制性グルタミン酸レセプター(GluCl)はともに抑制性神経伝達を担う生理学的に重要なレセプターであり、かつ殺虫剤の重要なターゲットである。本研究ではこれまでに、イエバエ(Musca domestica)を材料にして、レセプター遺伝子とタンパク質の体内局在、サブユニットバリアント遺伝子の存在とその局在、バリアントのチャネル機能などについて明らかにしてきた。今最終年度は、GluClの各バリアントをアフリカツメガエル卵母細胞に発現させて、ボルテージクランプ法による詳細な機能解析を行った。その結果、エクソン3におけるスプライスバリアントをホモマーとして発現させた場合、グルタミン酸応答におけるImax、EC50ともにバリアント間で有意差がないことが明らかになった。さらに、3種バリアントを4種類の組み合わせでヘテロマーとして発現させた場合も、アゴニスト応答に大きな違いは見られなかった。さらに、GABARに対して高活性を示す非競合的アンタゴニストであるピクロトキシニンとフィプロニルのGluClホモマー、ヘテロマーに対する活性を調べたところ、GluClは高感受性ではなく、しかもバリアントCを含むとさらに低感受性になることが明らかになった。従って、これらの殺虫性非競合的アンタゴニストのターゲットはGluClではなく、GABARであると考えられた。 次に、昆虫に競合的アンタゴニスト活性を示すイソチアゾロール誘導体を合成して、3種昆虫のGABARに対する活性を調べた。昆虫GABARに対して高活性を示す競合的アンタゴニストはこれまでに報告例はないが、今回合成した誘導体は比較的高い活性を示したので、今後、構造展開をしていく中からGABAR選択的競合的アンタゴニストが創製できるものと期待される。
|