研究概要 |
人や家畜の寄生線虫症治療薬(抗線虫薬)に対する薬剤耐性虫の出現が深刻な問題となっている。そのため,従来の抗線虫薬とは全く異なる作用モードを持つ薬剤の開発が望まれている。 研究代表者は,モデル生物である非寄生性線虫C.elegansを用いて,希少糖の中から新たな抗線虫薬候補を探すスクリーニングを行ってきた。その過程で,ケトヘキソース立体異性体8種(D-,L-フルクトース,プシコース,タガトース,ソルボース)のうち,D-フルクトースのC-3エピマーであるD-プシコースのみがC.elegans幼虫の成長を抑制することを明らかにした。また,アルドヘキソースの立体異性体のなかでは,D-グルコースのC-3エピマーであるD-アロースに成長抑制活性を認めた。研究分担者(川浪)は,リパーゼを用いて希少糖の第一級水酸基を選択的にエステル化する方法を確立している。この方法で,簡便・迅速に多数の希少糖エステル誘導体の合成が可能となる。上記の方法で合成したD-アロース6-0-オクタン酸エステルの生物試験を行ったところ,D-アロースと比較して,著しい活性上昇が認められた。これは分子の疎水性が増したことにより,細胞膜透過性が向上したためと考えられた。この結果を足がかりとして,本研究では,様々な希少糖エステル誘導体を合成し,活性の向上を図ることで,新規な抗線虫薬候補の開発を目指す。平成22年度は(1)のC.elegans成長抑制活性への炭素鎖長の寄与を明らかにするために,様々な炭素鎖長を持つD-アロース脂肪酸エステルを合成し,その成長抑制活性を評価した。
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