前年度において、ニューロステロイドであるプロゲステロンとアロプレグナノロンおよびプロゲステロンと類似の動物活性をもつ物質(プロゲスチン)はシダの造精器形成を阻害することを明らかにした。また、我々はカニクサの内生物質としてプロゲステロンの前駆体であるプレグネノロン、プロゲステロン、プロゲステロンの代謝物である5α-ジヒドロプロゲステロンおよびアロプレグナノロンを同定した。このことより、植物、少なくともシダにおいては、プロゲステロンとアロプレグナノロンが内生の生殖生理活性物質として働いていると考えられた。 そこで、本年度においてはより下等な植物においてプロゲステロン関連化合物が合成されているかという進化発生的知見をうるために研究を実施した。その結果、シダの中では最も下等なヒカゲノカズラ類のイヌカタヒバおよびコンテリクラマゴケなどの抽出物を各種クロマトグラフィーによって精製した後、ガスクロマトグラフィー-質量分析法により定量的に分析した結果、プレグネノロン、プロゲステロン、5α-ジヒドロプロゲステロンおよびアロプレグナノロンを同定定量できた。一方、進化発生学的に見るとシダ類よりさらに早く分化したコケ類についても対象をひろげ、ゼニゴケおよびヒメツリガネゴケなどにについて分析したところ、上記ステロイドが同様に内生物質として同定された。また、単細胞藻類であるユーグレナおよび真核微生物についても分析したところ、上記ステロイドが同定された。以上のことより、プロゲステロンをはじめとする子ユーロステロイドは生命進化の初期の段階から生物の成長分化に関わってきた可能性が示唆された。
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