研究概要 |
本わさびに含有するイソチオシアネート化合物である6-methylsulfinylhexyl isothiocyanate(6MSITC)で明らかにしてきた抗糖尿病効果について、前年度、クレソン等の他のアブラナ科野菜に含まれる類似化合物phenethyl isothiocyanate (PEITC)でも見いだしたことを受け、その有効性を詳細に検証した。 1.脂肪細胞におけるインスリン応答への効果 3T3-L1脂肪細胞を用いて、PEITC前処理後のインスリンによる糖取り込み活性を評価した。その結果、PEITC24h前処理した場合では、低濃度(10uM)のPEITC処理においてインスリン刺激による糖取り込み活性を上昇させる傾向を示したが、高濃度ではむしろ抑制した。また、PEITC単独での有効性は見出されなかった。PEITCがインスリンシグナルへ及ぼす影響を検討した結果、酸化ストレス下で低下したインスリン刺激によるインスリン受容体活性を回復させる効果を認めた。このことから、PEITCは酸化ストレス軽減効果を介してインスリン作用の改善に寄与している可能性が考えられた。 2.肝臓細胞におけるPEITCが細胞内シグナル伝達に及ぼす効果の解析 これまで検討してきた6MSITCでは、その作用機序として細胞内シグナル伝達は明らかな変化を見いだせていなかった。しかしながら、PEITCでは肝臓細胞であるH4IIE細胞において、インスリンシグナルの下流であるAktの活性化、ストレス応答経路であるp38MAPK, JNK等の活性化が起こることを見出した。阻害剤での検討から、少なくともPI3K-Akt経路はPEITCによる肝臓細胞における糖新生抑制効果に関与している可能性を明らかにした。以上の結果は、PEITCの糖尿病態緩和効果の作用機序を明らかにする上で重要な知見である。
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