心筋梗塞や脳卒中などの血管病は、我が国死因の上位を占めており、解決すべき最重要課題である。我々は、その主因である血管攣縮(痙攣したように突発する血管の異常収縮)の原因分子として、スフィンゴシルホスホリルコリン(SPC)を同定し、SPC/Fyn/Rhoキナーゼ系による病的シグナル伝達経路を明らかにした。さらに、我々は、病的シグナル伝達にコレステロールおよび膜ラフトが必要であることを世界で初めて発見した。血管病の危険因子として有名なコレステロールは、細胞膜に均一に分布するのではなく、細胞膜上のマイクロドメインである膜ラフトに限局して蓄積する。しかしながら、細胞内における膜ラフトの機能や構造は不明瞭な点が多く、特に、血管機能における報告は皆無である。 そこで、本研究の第一の目的として、独自に開発したハイブリッドリポソームを応用して、膜ラフトの動態変化を経時観察すると共に、血管異常収縮を引き起こす病的シグナル分子の多因子・同時可視化を行い、分子間相互作用を定量的・経時的に評価する事を目的としている。 一方、我々は、血管病発症後に作用する治療薬ではなく、血管の異常収縮そのものの予防法を開発するため、多種多様な構造を有する数多くの天然物をスクリーニングし、in vitro系においてSPCによる血管異常収積を特異的に抑制する新規成分YuKを発見した。そこで、本研究の第二の目的として、新規成分YuKの生体レベルでの検証を行い、有効血中濃度とこれに必要な経口摂取量の決定を目指している。 上記の目的を達成するため、平成22年度は以下の検討を行った。 (1)膜ラフトと病的シグナル分子との相互作用を純粋な実験系で検討するために必要なハイブリッドリポソームの最適化を試みた。これにより、今後、膜ラフトと病的シグナル分子との相互作用解析をスムーズに進行できる。 (2)膜ラフトの挙動解析を行うため、走査型電子顕微鏡(SEM)、及び、原子間力顕微鏡(AFM)の観察条件を検討し、直接的視覚化の予備検討を行った。 (3)SPCによって引き起こされる異常収縮に対して、新規成分YuKの抑制効果について調べた。同様に、正常収縮に対する新規成分YuKの影響についても調べ、両者の効果を比較検討した。
|