ミトコンドリア型の酢酸活性化酵素2(AceCS2)欠損マウスは長期絶食状態に置くと、酢酸利用障害のため血中酢酸濃度が著しく上昇し、これと共に低血糖、低体温及び運動持久力の低下を引き起こす。しかし、本マウスの血中脂肪酸及びケトン体濃度は野生型コントロールと比較して有意な違いは見いだされない。そこで、この表現型が血中酢酸濃度上昇による心筋、骨格筋及び褐色脂肪組織のエネルギー代謝障害、すなわち、ケトン体や長鎖脂肪酸の利用障害であるかどうかを解析した。AceCS2を本来発現していない肝臓で発現するトランスジェニックマウスを作製し、AceCS2欠損マウスと掛け合わせた。このマウスでは、血中の酢酸濃度は正常レベルまで低下したが、AceCS2欠損マウスとほぼ同様の表現型を示した。また、通常飼育環境下でのAceCS2欠損マウスの心拍を解析したところ、野生型と比較して高頻度に不整脈が出現することも明らかとなった。これらの結果は、心筋、骨格筋及び褐色脂肪組織に於ける主要なエネルギー源は酢酸であることが明らかとなった。さらに、AceCS2を欠損した雄マウスは不妊で、精子の形態に異常は観察されないことから、精子も運動のエネルギー源として酢酸を利用していることが示唆された。一方、AceCS2欠損マウスは高カロリー食摂取による肥満誘導に対して抵抗性を示す。そこで肝臓特異的AceCS2-TgマウスとAceCS2欠損マウスを掛け合わせることで、AceCS2欠損マウスに見られる肥満抵抗性メカニズムを解析したが、AceCS2欠損マウスとの違いは見いだせなかった。
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