研究概要 |
卵白の主たるアレルゲン蛋白であるオボムコイドに、直流電流(90V,0.2A)を30分間通電することで、陰極側でアレルゲン性の減弱化が生じる。昨年度の研究では、陰極側および陽極側で得られる蛋白を直接酵素処理して質量分析したところ、両極で違いが確認されなかった。そこで今年度は、各々の蛋白に二次元電気泳動を施行し、そこで観察される種々のスポットの中から、最も大きな部分を切り取り、そこに含まれる蛋白に酵素(トリプシン)処理を行った後、質量分析装置(MALDI-TOF/TOF) 4700Proteomics Analyzerで分析した。S-S結合解析用データベースサーチができないため、オボムコイドを酵素処理した時にできる理論断片の中からシステイン残基をもつペプチドを選び、そのペプチド同士を組み合わせたときの分子量の理論値を計算し、MALDI-TOF/TOF実測値との比較からS-S結合の候補検索を行った。その結果、通電処理前と陽極側の実測値からS-S結合の候補を2ヶ所見出すことができた(通電前:^<63-85>LPGFGDSIEAQCGTSANVHSと^<358-379>ADHPFLFCVKHIETNAILLF,陽極側:^<01-20>MGSIGAASMEFCFDVFKと^<368-383>HIETNAILLFGRCVSP)。これらの断片は、昨年の研究で変化が示唆された領域(81EHDGECK,147-152HDGGCR)とは重複していない。一方、陰極側の分析からS-S結合候補の組み合わせを見出すことはできなかった。 以上の結果から、通電処理によって、陰極側ではS-S結合に関与するペプチド断片に特異的変化が生じていることが示唆される。なお、二次元電気泳動のスポットを切り取り、抽出した蛋白の光分散を測定したところ、各々20%以上の分散が確認された。これらの蛋白は結晶化に不適であると考えられ、今後、蛋白結晶化に基づく高次構造解析は困難と思われた。
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