ラット肝臓のセリン合成の律速酵素である3-ホスホグリセリン酸脱水素酵素(PHGDH)とアスパラギン合成酵素(AS)の発現は必要量以下の低タンパク質で誘導され、必要量に達すると抑制される。アミノ酸混合食を用いてこの機構を検討し多ところ、メチオニンを欠失したアミノ酸混合食ではこの抑制効果は認められなかった。逆に低タンパク質にロイシンを加えたところ発現は抑制された。これらの効果はメチオニンとロイシンに特異的で、かつ摂食開始とともにmRNAの減少が始まり、門脈血中の濃度も変化することから、これらのアミノ酸がシグナルとなり必要量に応答してこれらの遺伝子の発現が制御されることが示唆された。また、この制御にアミノ酸応答(AAR)経路が関与するか否かを核抽出液中の転写因子ATF4の発現を測定することで検討したが、検出することが出来なかった。 加齢による栄養要求性の変化と各組織におけるPHGDHとASの発現をタンパク質栄養の条件を同じにした成長期及び成熟ラットを用いて比較検討した。その結果、脾臓、骨髄、心筋で、AS、PHGDHの発現が成熟ラットで減少していた。また、精巣では両酵素の極めて高い発現が認められたが、ASの発現は成熟ラットでさらに亢進していた。一方、腎臓での両酵素の発現は弱かったが、成熟ラットでPHGDHの発現が亢進していた。脳では加齢による変化は認められなかったが、ASの発現は極めて弱く、PHGDHの発現は極めて高かった。 本課題は、アミノ酸代謝とタンパク質必要量との関連、特に可決アミノ酸の供給がどのように担保されているかと言う観点に立った初めての研究であり、肝臓では必要量に応答し発現制御されるとともに、臓器によって発現のパターンが異なることを初めて示し、臓器の特性によってその要求量が異なる可能性を示した。今後、これらの知見を元に、臓器特性に合ったアミノ酸栄養への展開が期待できる。
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