研究概要 |
がんは生活習慣に起因する疾病である。日本において近年、前立腺がんや乳がんの発症率が上昇しており、その一因として食の欧米化が考えられている。固形がん(前立腺がん、乳がん)が生育する低酸素環境でがん細胞は低酸素応答遺伝子を発現する。低酸素応答遺伝子は、低酸素誘導因子(hypoxia-inducible factor, HIF)によって発現が調節される。HIFを構成するαサブユニット(HIF-2α)は低酸素下で安定に発現するので、HIF発現の律速因子となる。本研究の目的は、HIF-2α特異的な発現調節機構を明らかにし、食品成分とがんの低酸素応答系との関係を評価する測定系を構築することである。本年度は、HIF-2αに結合する新規タンパク質をさらに探索した。また酸素存在下で測定系が実施可能かを評価するために、常酸素下でのHIF-2αの役割も検討した。まずHIF-1αと相同性の低いHIF-2αの領域を組み換えタンパク質として作製して、HIF-2αの新規結合タンパク質を探索し、PSFとKu86を同定した。さらにHIF-2αを発現するエストロゲン依存性のヒト乳がん細胞MCF-7でHIF-2αの発現をノックダウンさせたところ、常酸素下でエストロゲン受容体α(ERα)の発現レベルが上昇した。一方、HIF-1αのノックダウンはERαの発現レベルに影響しなかった。酸素感受性HIF-2αの過剰発現はERαの発現を低下させたが、酸素非感受性HIF-2αの発現はERαの発現に影響しなかった。さらにHIF-2αとpVHLの共発現はHIF-2α単独よりもERαのレベルを低下させた。一方、pVHLのノックダウンはERαの発現を増加させた。これらの結果を踏まえて低酸素応答を測定できるバイオアッセイ系をがん細胞で樹立し、食品成分の抗低酸素応答活性を評価した。
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