生体膜(リン脂質二重層)の内外層を構成する脂質分子は大きく異なる。しかし、in vitro及びin vivoにおける膜の酸化に関するこれまでの多くの研究は、膜リン脂質の(アシンメトリー)非対称分布の影響について考慮していない。申請者は先に、ドコサヘキサエン酸(DHA)等の高度不飽和脂肪酸を含有するホスファチジルエタノールアミン(PE)の非対称分布が膜の酸化安定性に関与することを明らかにした。本研究の目的は、PEの非対称分布を中心に、コレステロール(Cho)の膜安定化効果等に対するPEの共存効果について、さらに、生体におけるChoの抗酸化作用の有無について検討を行うことを目的とした。 エクストルーダーを用いて、脂肪酸組成の異なるホスファチジルコリン(PC16:0、PC18:0、PC18:1)と牛脳由来ホスファチジルエタノールアミン(PE)からなるリホソーム、さらに、これらにChoを含むリホソームを作成した。 PC/PE/Choの比率はヒト赤血球に準じた。粒子径がおよそ200nm以下において、PC18:1は、PC18:0、PC16:0に比べて、脂肪酸側鎖の占有容積が大きいために、リホソーム膜の内層に分布しやすいと考えられる。すなわち、PEはPC18:1と共存すると外層へ押し出される(外層PEの割合が増加する)。しかし、本研究では、脂肪酸側鎖の占有容積が低いPC16:0とChoが共存する場合、PEが外層により多く配向することが観察された(PC16:0/PE/Cho>PC18:0/PE/Cho)。これらのリホソームのリン脂質二重層の外層側から、水溶性ラジカル発生剤を用いて酸化させ、生成する過酸化物を測定したところ、対照(Choを含まない)と+Cho(Choを含む)のいずれも、経時的に有意に増加した。同じPC種で比較すると、酸化時間が経過するほど、+Choにおいて有意に抑制された。対照は、4時間後にPC18:0/PEがPC16:0/PEとPC18:1/PEに比べ、増加した。+Choも、4時間後にPC18:0/PE>PC16:0/PE>PC18:1/PEの順に有意に増加した。以上のことから、Choは膜において抗酸化作用を発揮するが、その作用は、膜におけるリン脂質分布のみならず、リン脂質分子中の脂肪酸組成の影響を受けることが示唆された。
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