生体膜リン脂質二重層の内外層の脂質分子種は大きく異なる。しかし、in vitro及びin vivoにおける膜の酸化に関するこれまでの多くの研究は、膜リン脂質のアシンメトリー(非対称分布)の影響について考慮していない。この点に着目し、H22年度は、コレステロール(Cho)が生理的濃度においてビタミンE(VE)に比べて同等かそれ以上の抗酸化能を有すること、また、Choの抗酸化能は共存するリン脂質(ホスファチジルコリン)の分子形状の影響を受けることを見出し、H23年度には、その抗酸化能が膜リン脂質のアシンメトリーのみならず、リン脂質の分子構造の影響を受けることを明らかにした。そこでH24年度は細胞を用いてin vitroで得られた知見との整合性について検討した。高コレステロール食を摂取すると赤血球膜中のCho量が増加すると共に、リン脂質二重層を構成するリン脂質種も変化する。高コレステロール食を与えたマウスから赤血球を採取、低張溶液で溶血させ内容物を除去しWhite Ghostを得た。White Ghostは膜の一部が突出して小胞化した構造をとる。一方、マグネシウム塩を加えて浸透圧を回復させた溶液で処理し、膜を再封したResealed Ghostを得た。対照として通常マウスの血液も同様に処理した。これらを用いてリン脂質二重層の非対称性と酸化感受性との関係を探った。アミノリン脂質の検出プローブ(TNBS)を用い外膜(External)と二重層全体(Total)を測定した結果、全ての膜間で膜リン脂質のアシンメトリーに差が認められなかった。水溶性ラジカル発生剤(AAPH)を用いて外膜側から過酸化反応を誘起させた結果、全ての膜間で過酸化物の生成量に差が認められなかった。従って膜リン脂質のアシンメトリーと酸化感受性についてin vitroとin vivoで整合性は得られなかった。
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